こだわりの須坂銘菓「一万石」を食べに来てください。お待ちしております。

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昨年の秋に市内のある和菓子屋さんが店を閉じました。

ご夫婦二人で何十年も営んできた、地域の人たちになじみの店でした。ご主人は奥さんにでさえ包装以外の菓子製造を任せなかったという職人気質の方です。

そんなお店を有名にしたのが須坂銘菓「一万石」というお菓子でした。そう、いわゆる「ブッセ」です。あんずジャムにバタークリームがサンドしてあります。

ところがこのお菓子、食べると不思議なことにもう一つ食べたくなる。そして、もう一つ。 さらに特筆すべきこだわりが。

恐らく、世の中にあるブッセの多くが、「膨張剤」を使っています。薬の力で膨らんでいるわけです。でもこのご主人のものは膨張剤を一切使わず、卵の力だけでふっくらと膨らんでいるのです。 他にも、よくある「乳化剤」「乳化気泡剤」「増粘剤」「品質保持剤」「pH調整剤」といった添加物の類は一切使用されていません。使っているのは、卵、砂糖、小麦粉の3つのみ。

十年ほど前でしょうか、ご主人に酒の席で頼んだことがあります。 「もし商売を辞める様なときが来たら、この商品を私に引き継がせてくださいと。」

ただその時は本人もそんな先の話は考えられないし、やめるつもりもないので・・・、という感じでしたし、最近になってそんなこともあったんですよと聞いてみたら、「覚えていない」という返事でした。当然ですよね、現役バリバリだったわけですから。 でも、その時は確実にやってきてしまいました。

昨年やめられる時に再度お願いして、工場の最後の日に講習会を開いていただきました。須坂銘菓を引き継いでいく、そんな重責を一人では負えないので仲のいい気がおけない菓子屋仲間の二人にも出席してもらいました。

「道具や材料はまた買える。でも長年かけて培ってきた技術や経験は絶対にすぐには手に入らない。このまま無くなってしまってはもったいない。」という私の思いに賛同してくれた仲間です。

ところが、私の店の工場には肝心要の焼菓子を作るためにオーブンがありませんでした。工場のスペースの関係で長年断念してきたわけで、すぐに引き継げるといった状況ではありませんでした。

「このまま終わってしまっては悔しい。」

一念発起して今年の一月に工場を改装、やっとスペースを作って悲願だったオーブンを入れたわけです。業務用オーブンはでかいし値段も高い。でも、頭にあるのはそれよりも大きい、前向きな気持ちだけでした。

ご主人が「この菓子を引き継いで欲しい。」といったのは、単に名前を継いで欲しいといったわけではありません。味、形、香り、食感、そしてお客さんの頭に残っている記憶、これら全てが同じでなければなりません。

卵、小麦粉、砂糖、あんず、バター、の材料を全て同じくし、メレンゲを立てる時間と加減、粉合わせの仕方と回数、絞り方、焼き方と加減、それら全てを手際よく進める段取り、ビデオ撮影の映像を元に、出来うる限り同じになるように再現製造を心がけました。

師匠に食べてもらいました。感想はじっくり後で聞くことにしています。 写真のパッケージは師匠からいただいたもので、裏にはやめられたお店の情報が印刷されいてます。しばらくはこれを使わせていただこうと思っています。そして、そのうちに新しいパッケージも考えることにします。

恥ずかしくない商品をお届けしたい、そう思っています。

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